『VR認知症体験』。
先日、「認知症」という病気が持つ症状を、VR(バーチャルリアリティ)で体験する機会がありました。
皆さんご存知のように、大型のメガネがついたヘッドギアのようなものを頭に装着し、さらにヘッドホンを耳に当てて、目と耳で仮想空間を体験するシステムです。
そこでまず最初に遭遇した場面…
自分自身の両脇を、ヘルパーさんと思われる人にはさまれるように抱えられ、「大丈夫ですから右足から一歩前に進んでみましょう!」と促されます。
ところが、自分の足元に視線をやるとそこはビルの屋上の淵も淵。
とてもじゃないけど右足を一歩前に踏み出すことなんかできるわけがありません。
それでも「大丈夫だから右足を前に出してみましょう」と急かすヘルパーさん。
止むを得ず目をつぶって前進してみると、気がついた時にはそのビルの1階の地上に降り立っているのです。
その時ヘルパーさん曰く、「ね、大丈夫だったでしょう?」…
これは、あるおばあちゃんが“デイサービスの送迎車から降りる場面”を、実際にその時の状況をご本人からお伺いすることにより作られた映像でした。
なるほどぉ…
私たちにとっては何のこともないありきたりの光景が、「認知症」の人たちにはこんな風に見えているのかぁ。
これじゃ、足がすくむのは当たり前だよなぁ。
ギャーッって大声を上げてしまうのも当然のことだ。
さらにこの映像は….
電車に乗っている最中に、自分がどこにいるのかわからなくなってしまうおばあちゃんの視界に変わります。「ここはどこですか?」と、たまたま降りた駅の駅員に聞くと、その駅員が全くトンチンカンな誘導をしてしまうという場面や…
さらにさらに…
「どうぞ召し上がって下さい」と言われて差し出されたケーキに、ミミズが這っている(ように見えてしまう)ので食べようとしない自分に対して、「具合でも悪いんですか?」「美味しいのに…」と、怪訝な顔をされてしまう場面へと続きます。
ビルの屋上から飛び降りろと言われたら、誰だって暴れて抵抗するでしょう。ミミズを無理に食べさせられようとしたら、誰だってビックリして大声を上げてしまうでしょう。
自分の身の周りに、意味もなく暴れる人がいたら…また、やみくもに大声を上げて叫んでいる人がいたら…社会から隔絶されてしまいますよね。ただ、本人にしかわからない世界がそこに存在しているだけなのに…
こういう病気を持った人たちに対しては、特に周囲の理解と温かい声がけや思いやりのある接し方が大切なんだということがよくわかりました。
一方で、私は「認知症って本当に“病気”なんだろうか?」と思うことがよくあります。
自分とは違う目線を持つ人、自分とは違う行動を取る人、自分とは違う感覚を持つ人…そういう人たちのことを奇異なモノと捉えてしまいます。
そんな「普通の」人たちを、自分とは違うからという理由だけで嫌いになってしまったり、邪険にしたりしていませんかねぇ?
ひょっとしたら、ただ「個性」が違っているだけなのかも知れません。
自分と自分以外の人は、違っていて当たり前。「病気」と「個性」の違いは、実は紙一重なんではないか…考えさせられた体験でした。
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